pieces of you pieces of you lie in me inches deep
2024-11-02
世の中にはノリで会話を進めるタイプの人種とロジックで会話を進行するタイプの人種がいる。前者は不誠実だが正しい。後者は誠実だが間違っている。
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僕は同じ大学に進んだ高校の友達と大学の食堂で一緒に食事をしていた。軽音楽サークルの勧誘の人が来て、好きな曲とかありますか?みたいな質問をしてきた。僕はそこに入る気も全くなかったし、ここで本来の趣味を開示する必要もないとすぐに判断することができた。それで適当に答えようと思って、あいみょんとかよく聞きますね~みたいなことを言った。そのあと友達はなんか中島美嘉の雪の華が好きで…みたいなことを言った。その誠実さってここで必要ないだろと僕は思った。だが自分もよく質問にちゃんと答えようと思って、ぱっと思いついた返答をそのまま口に出すのではなく、「これって本当の自分の思いといえるのだろうか?」みたいな自問が生じてしまうことは自分にもよくある。結果として分かりやすいスタンスを取らず、どっちつかずの返答をしてしまう。よくよく考えたらほとんどはそんな感じで、かえってその時適当に答えられた方が珍しかったくらいだと思う。
また別の友達と東京で買い物をした時のことを思い出す。表参道のジュエリーショップみたいなところに手あたり次第入って、彼は適当な相槌を打って、適当な予算(毎回その場の空気によって変動する)をべらべら喋っていた。そのような図太さ、もう会うこともないんだという割り切りを獲得したい。誠実さよりも分かりやすさのほうがずっと重宝される。このようなことはなんとなく経験的に察知してきたが、世の中のルールなのだろう。それでも質問されたときに咄嗟、正しい返答を一生懸命考えてしまう。本当は正しい返答なんかより受け取って処理しやすい適当な答えのほうが場を円滑にするし、大してその正しさに意味なんてない。それにちょっと時間が経ったら誰も自分の言った内容なんてほとんど覚えていない。もっと無責任で、後先考えず、一時のコミュニケーションの価値を低く感じていないといけないよなと思う。
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今日は20日だった。昨日の日記に書き忘れたことだが、きのうは給与明細が届いていた。月給制の会社員に適用される給与システムでは、当月分の給料を当月20日に支払うことができる。まだ働いていない分の現金──未遂行の労働の対価──が振り込まれるのはすごく不思議なことに思えた。
僕に設定された額面はだいたい32万円で、今月は健康保険と厚生年金の支払いが始まっていないから、ほとんど所得税しか引かれないようなものだった。それで30万円くらいが差引支給額として振り込まれる運びになっていた。これはかなり上出来だった。今月は先月出した請求書もあるから、もう15万円くらい入ってくる。来月からはどうだろう?厚生年金が9.3パーセント(会社と折半する前は18.6%)。健康保険が5%とかその前後くらいのインパクトだった。だから来月からはもう5万円くらい引かれるのだろうなと思う。それで26万円とかになる。これはあまり上出来ではなく思えた。とはいえちょっとアルバイトではもらえない金額だし、それより少ない金額で生活している人はたくさんいる。それと同様にもちろんそれより多い金額で生活してる人もたくさんいる。それなりに上出来だし、それなりに上出来ではない。いずれにしても、税というのはがっかりする。多くの人に「がっかり」をもれなく提供してまわる装置みたいだなと思う。
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夜10時くらいに散歩しようということになり、川の方まで歩いた。携帯とヘッドホンとイヤホンと鍵を持って家を出た。イヤホンを持つのは夏だからだ。でも電源を切って接続を切り替えるのが億劫になったので、結果としてはイヤホンを持っていく意味はなかった。
駅の方に行って、線路沿いにぐるっと歩いた。特に何も起こらなかった。また誰とも会わなかったし、大きな出来事も生じなかった。外は夜でもまだ蒸し暑くて、家を出るとすぐに不快な感じだった。街道のセブンイレブンの近くを歩いていると、川辺の水草の匂いがした。それは道路沿い、住宅街の中にぽつんとある畑から来る匂いだった。そのため、水草の匂いは知らない他人の家の匂いにだんだんと(でもすごく短い時間で)遷移した。ご飯時でもなかったから、ただの他人の家の匂いだった。河川敷ではカップルがコンクリートの段差に座り、横並びで抱き合っていた。ぴったり真横に座ったまま、大きく上半身をねじらせて相手を抱きかかえていた。正面を向いて抱き合えばいいのにと思った。とはいえこういったシチュエーションでのぎこちなさや戸惑い、相手への近づき方の不明、自分の身体と相手の身体の不自然な取り扱いは、自分にも心当たりがあるようにも思えた。駅のファミリーマートで台湾烏龍茶を買った。この烏龍茶があるから僕はファミリーマートに行くことがよくある。烏龍茶を買って歩いて家に向かった。財布を持ってきてないから、電車には乗れない。PayPayで切符が買えるようになればいいなと思った。もっと便利になる。
僕は日記のために烏龍茶の写真を撮った。でもうまく撮れていなかった。